シブーストというフランス伝統菓子をご存知でしょうか?
シェ·シバタのシブーストはとても美しいフォルムで食欲をそそりますね。
現在では、各パティスリーでアレンジされた美味しそうなシブーストが沢山あります。
シブーストが現在のパティスリーで造られるようになった歴史を調べていくと、ある日本人パティシエが大きく関わっていることがわかりました。
スイーツ好きなら、なかなか興味深いと思います!
そこで今回は、現役パティシエでもある筆者が、シブーストの歴史と、その日本人パティシエの関係を解説します。
シブーストの歴史。考案したのは誰?
シブーストが人名であることは、なんとなく予想出来たと思います。
180年も前にフランスで誕生。
かなり歴史があるようです。
パティシエwikiによりますと、
19世紀中ごろのパリ、サン・トノレ通りに店を構えていた菓子職人のシブースト氏が考案した。彼の名前から「シブースト」と命名されたことが名前の由来である。当時は冷蔵施設がなかったため、生クリームや卵を使ったクリームは細菌の温床となっていた。そのため、シブースト氏は熱したシロップと卵白を混ぜたイタリアンメレンゲを使い、カスタードクリームとゼラチンを用いたクレーム・シブーストを考案。火を通したクリームにゼラチンを混ぜて固めることで、細菌の問題を解決した。これがシブーストの誕生である。
引用元:パティシエwiki
そうです、シブーストさんが作ったからシブーストという名前が付いています。
雑菌が増えにくいクリームを必要としていたから発明したんですね。
お菓子に特化したウィキペディアがあることはありがたいです。
しかし、ウィキペディアには一般人の投稿でエビデンスに欠ける一面もありますので、私も生意気ですが、少し捕捉していきたいと思います。
シブーストの弟子が考案した?
パリのサントノレにお店を出していたのがシブーストさん。
その弟子のオーギュストジュリアンという人が考案したという文献もあります。
わざわざ名前が残っているということを考えると、やはり弟子の功績が高いような気がしますね。
シブーストが考案された理由を深堀してみる。
上記ウィキペディアにあるように、1840年頃の話ですから、まともな冷蔵庫など無かったと思います。
とにかく甘い、フランスのケーキ、、
では当時のお菓子はどのような物が多かったのでしょうか?
砂糖には雑菌の繁殖を防ぐ効果があります。
こちらのサイトで砂糖の防腐効果を説明されています。
糖度の単位をポーメといいますが、30ポーメを越えると雑菌が繁殖出来ない状態になります。(めちゃくちゃ甘い!)
火を通して殺菌処理出来ない生菓子においては、この30ポーメを越えないまでも、かなり甘いクリームを使うことが常識的だったんですね。
フランス菓子は凄く甘いイメージがありますが、それは当時の名残りなんです。
昔のシブーストは甘さ控えめなほうだった?
シブーストにはイタリアンメレンゲを使いますが、
wikiにあるように卵白を殺菌するには大量の熱したシロップが必要で、とても甘い物であったと想像出来ます。
しかし、空気を含んだメレンゲをクリームに使うことで、少しでも口当たりの良いものをという、先人の偉大な知恵が、このシブーストには表現されてるんですね。
冷蔵技術の発達で、シブーストが消えた?
昔は、むちゃくちゃ甘いのが前提のフランス菓子。甘さを活かしたケーキが沢山生み出されましたが、、
そんなに甘くなくていいです。
20世紀に入って冷蔵技術が発達し、食品の扱いに革命が起きたわけですが、当時の職人にも大いに受け入れられ、ヌーベルガストロノミー(新しい食文化的な?)というムーブメントがケーキの分野にも入ってきました。
それまでの甘くて重いものは敬遠され、シブーストもその対象になっていました。
やっぱ、昔のがいい?
ちょっと、はしょりますが、時代は繰り返すというか、1970年代に入るとやっぱり昔の伝統的なほうがよくない?という、古典回帰のムーブメントが起こります。
お菓子の世界も多分に漏れずその流れの中にありました。
日本人パティシエがシブーストを発掘?
1970年代、日本では本格的な洋菓子の黎明期でした。多くの若者がフランス菓子職人を志し、優秀な者は抜擢され、フランスに留学を許されました。(今のように簡単に行ける時代じゃないですよ)
吉田先生が留学先でシブーストを再評価。
実はお菓子好きの世界では有名な話です。
ブールミッシュ(ケーキ屋さん)の吉田菊次郎先生の逸話です。
色んな方が詳しく紹介されていますので、私が説明するよりも、その一部を引用させて頂きますね。
今から40年ほど前、1971年のパリで修業を積んでいた吉田氏は、モトドール(純良材料のみをつかって作るお菓子屋の会)という会に参加していた。あるときのテーマは「失われた古き好きお菓子の発掘」。吉田氏は腕を振るおうと文献を読みあさり、「クレーム・シブースト」のレシピに出会う。
日本人らしいていねいな仕事で復元されたケーキは名だたるパティシエが参加するこの会で絶賛され、吉田氏はパティシエとして運命的なものを感じたそうだ。
引用元:cake .tokyo
良い話ですね。当時、東洋人がフランスで菓子修行など、外国人が寿司を握っているようなもので、とても困難だったと思います。
古典回帰のムーブメントもありましたが、日本の若者がフランスの伝統菓子を発掘、再評価したことに驚き、称賛したんでしょうね。
この時代、渡仏し、日本の洋菓子の礎を築いた偉大な先生方がいらっしゃいますが、吉田菊次郎先生はその著作も多く、日本の洋菓子業界に与えた影響、功績は計り知れません。(現在もご活躍されています)
吉田先生の著作によるシブーストの記述。
1980年に柴田書店により刊行された吉田先生の著作が私の手元に有ります。
シブーストの欄を原文のまま紹介しておきます。
タルト・シブースト
Tarte Chiboust
シブーストは人の名つまり“シブーストの作ったタルト”のこと、これに使うクリームをクレーム・シブーストcrème chiboustと呼ぶ。サントノーレという菓子にも同じクリームを使うのでクレーム・サントノーレという。
フワッとした柔らかい感触が持ち味の菓子。
製菓技術教本 パティスリー 吉田菊次郎著より
あら、意外とあっさりしていますw
この著作には大量のレシピがありますから、シブーストだけにページを割くわけでは無かったようですね。
ブールミッシュの看板商品としてシブーストが推されたのは、もう少し後になってからですね。
しかし、現在ではブールミッシュのシブーストは多くのフォロワーを産み出しています。
日本のパティスリーで、定番のリンゴとシブーストクリームの組合せは吉田先生の考案です。(フランスでシブーストクリームは主にサントノレというケーキに使われていたようです。)
そして、それは現在のパティシエによって様々に進化し、多くのパティスリーのショーケースを彩っているのです。